【シブヤ大学】渋谷区が正面から反論しないまま結審

昨日(28日)、(株)渋谷サービス公社がNPO法人シブヤ大学に対して、神南分庁舎の一部を転貸して、違法無償使用させていた事件が結審した。
本件訴訟は、渋谷サービス公社の前社長・肥後慶幸が、シブヤ大学に神南分庁舎を無断無償で使用させることによって同公社に与えた損害を、渋谷区が渋谷サービス公社に株主代表訴訟を提起して、同公社に具体的な損害補填措置をとるように求めた住民訴訟である。
以下、原告側が今回提出した準備書面である。


第1 はじめに
被告から、平成24年6月8日付準備書面(2)が提出された。内容は、被告の従前の主張の繰り返し、若しくは従前の主張を若干敷衍するものに過ぎず、あえて反論するまではないと思われるが、本準備書面では、なお念のため反論を行うこととする。

第2 「原告らの主張に対する反論」(平成24年6月8日付準備書面(2)5ページ)に対する再反論
1 被告は、①譲渡制限株式の評価方式が多種多様に存在する以上、940万3659円の支出額が、直ちに同公社の株式価値の減少額とはならない、②渋谷サービス公社の純資産額は、支出前後で異ならない、という2点を主張している。

2(1)しかしながら、①については、原告らが、平成24年5月10日付原告準備書面(1)5ページ以下で反論したとおり、渋谷サービス公社が渋谷区に支払った940万3659円の支出は、株式価値の減少をもたらすものであり、渋谷区の有する財産に「損害」があったことは明らかである。
(2)株主代表訴訟は、個々の株主が、株式会社の有する権利を株式会社のために行使して役員等の責任を追及する方法を認めることにより、株式会社の利益の回復ひいては株主の利益の確保を図る趣旨に出たものである(東京地方裁判所商事研究会編「類型別会社訴訟(第2版)」(判例タイムズ社)271ページ)。
被告は、上記支出の前後において、渋谷サービス公社の純資産が減少していないなどと主張しているが、渋谷区が、肥後慶幸に対して、株主代表訴訟を提起して責任を追及し、940万3659円及びその遅延損害金を渋谷サービス公社に返還させることで、渋谷サービス公社の利益の回復ひいては渋谷区の利益の確保が図られるのである。たとえ渋谷サービス公社の純資産が減少していなくとも、被告が、肥後慶幸に対し株主代表訴訟を提起すれば、940万3659円及びその遅延損害金を渋谷サービス公社が取得することができることから、渋谷区長が株主代表訴訟を提起していない現在、その限りで損害が発生している。
渋谷区の利益の確保が図られる方策があるにも関わらず、その方策を取らないことは、「違法若しくは不当に…財産の管理を怠る」(地方自治法242条1項)ものといえる。

3 したがって、被告の主張する「原告らの主張に対する反論」は、いずれも失当である。

第3 本案についての被告の主張に対する反論

1 善管注意義務違反について
(1)はじめに
被告は、肥後慶幸について、善管注意義務違反はなかったので、株主代表訴訟を提起する必要はないなどと主張している。
しかしながら、原告らは、肥後慶幸の善管注意義務違反を客観的に基礎づける動かぬ事実(行政財産使用許可の転貸禁止条件に違反してシブヤ大学に渋谷区神南分庁舎2階の一角を事務所として貸し出した。)を主張立証しており、請求の趣旨を導くための要件事実は十分に主張立証されている。被告が主張する事項は、本件請求認容後に渋谷区長が肥後慶幸に対して提起する責任追及の訴え(株主代表訴訟)において審理されるべきものである。
したがって、被告の主張について反論することは不必要であると思われるが、なお念のため、本項においては、被告の善管注意義務違反に関する主張について反論をしていく。
(2)肥後慶幸に善管注意義務があること
被告は、渋谷サービス公社とシブヤ大学と業務委託契約を締結したことに不合理な点はなく、事業提携に伴い渋谷サービス公社の事務室の一部を作業場等として使用させることに合理性があり、シブヤ大学固有の業務が渋谷サービス公社事務室で行われたとは分からなかったなどと主張している。
確かに、株式会社がどのような団体と事業提携を行うかについての取締役の経営判断につき裁量権があることは間違いない。しかし、原告らが肥後慶幸の善管注意義務違反と主張しているのは、行政財産使用許可において転貸が禁止されているにも関わらず、シブヤ大学に渋谷区神南分庁舎の一角を事務所として貸し出したという点である。
この点について、被告は、①渋谷サービス公社の事務室を提携事業の作業場等としてシブヤ大学にしようさせることは、同事業の効率的な運営に資する、②監査において、転貸禁止に当たるとの判断は、シブヤ大学の主たる事務所の法人登記を渋谷サービス公社の事務室の一部としたことから、同大学固有の業務が同公社事務室で行われたと認められることを理由になされたものである、③商慣習上、取引相手の法人登記の確認はなされないのが通常である上、肥後慶幸は、シブヤ大学から法人登記について何らの相談を受けておらず、同大学による事務所の移転と評価できるような行動も見られなかった、などと主張している。
しかしながら、①シブヤ大学の行う提携事業は、専ら渋谷区神南分庁舎以外の場所で行われているにも関わらず(乙20号証)、渋谷サービス公社が、シブヤ大学に対し、渋谷区神南分庁舎の使用許可を受けた部分のうち他の部分と明確に区分された34.2㎡の一室をほぼ専用に近い状況(甲4号証10ページ)で作業場として使用させることは、不合理かつ明らかに必要性・相当性を欠いている、②監査において、転貸禁止に当たるとの判断は、法人登記において、シブヤ大学の主たる事務所が渋谷サービス公社の事務室の一部とされているという形式的な理由ではなく、上記一室が、シブヤ大学の事務所及び委託業務以外のシブヤ大学固有の業務場所として使用されているという実態を踏まえてなされている(甲4号証19ページ)。法人登記の主たる事務所の記載は、監査において事実認定の一材料とされているに過ぎない(「少なくとも(法人登記において、シブヤ大学の主たる事務所が渋谷区神南分庁舎2階の一室となった)平成20年5月29日以降は、シブヤ大学の法人固有の業務も併せて行われており、シブヤ大学の事務所としても兼ねて用いられていた。」(甲4号証11ページ)。この監査結果の記述は、平成20年5月29日以前から神南分庁舎2階の一室は、シブヤ大学に転貸されていたことは間違いないであろうが、事実認定を厳格にするために、法人登記の主たる事務所の記載という客観的事実をもって転貸開始日を認定しようという意図からなされたものである。)、③シブヤ大学は、平成18年9月7日に設立されたばかりの法人(甲4号証19ページ)であり、このような設立されて間もない法人の場合、取引の安全を確保するため、法人登記を確認するというのが通常の商慣習である。また、渋谷サービス公社の本社は、東京都渋谷区宇田川町5番2号(甲1号証)、すなわち渋谷区神南分庁舎に所在しているところ、同じ神南分庁舎内において、シブヤ大学が同庁舎の2階を①で述べたような態様で使用し、委託業務以外のシブヤ大学固有の業務も行ってていることに渋谷サービス公社社長である肥後慶幸が気が付かない訳はない(原告らが、神南分庁舎の2階がシブヤ大学の事務所として用いられていることを発見した(そして、住民監査請求を行った(甲4号証))のに、ほぼ毎日神南分庁舎に通っていたであろう肥後慶幸がその事実に気が付かない訳はない。)。
(3)小括
したがって、肥後慶幸に取締役としての善管注意義務があったことは明白である。

2 株主の裁量について
被告は、責任追及等の訴えを提起するかどうかは株主の裁量判断によるものであるなどと主張している。
確かに、株主が私人であったならば、責任追及等の訴えを提起するか否かは、株主の裁量判断に委ねられるであろう。しかしながら、本件の場合、株主は、渋谷区という地方公共団体である。原告らが平成24年5月10日付準備書面(1)7ページで主張したとおり、地方公共団体は、地方財政法や地方自治法の規律を受け、財産管理における裁量も自ずから法令による制限を受ける。
そして、最高裁平成16年4月23日判決(民集58巻4号892ページ)や京都地裁昭和61年4月10日判決(判時1213号74ページ)等は、債権について、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使または不行使についての裁量はないとしている。このような判例の趣旨からいえば、地方公共団体の長は、客観的に地方公共団体の財産価値を回復する手段があるにも関わらず、理由もなくその手段を取らないことについての裁量はないというべきである。
したがって、渋谷区の有する財産価値を回復する手段(=株主代表訴訟)があるにも関わらず、それを正当な理由なく提起しようとしない被告の行為は、違法である。

第4 結語
渋谷サービス公社のような地方公社や第三セクターは、地方自治法上の団体ではないため、民主的コントロールが及びにくく、そのため、近時、地方公社や第三セクターが、多額の不良資産、負債を抱え、破綻するなどしたため、地方公共団体がそれを支援しようとして債権放棄、補助金交付などの方法により多額の財産負担を行い自治体財政悪化に拍車がかかるような事例が多々見られる(井上元「住民訴訟の上手な活用法」(民事法研究会)37ページ以下)。また、民主的コントロールが及びにくいことを奇貨として、不正を行うために地方公社や第三セクターを設立するような地方公共団体も出てくる恐れがある。
このように、地方公社や第三セクターは、多くの問題点を抱えており、その是正のためには、民主的コントロールを及ぼす必要がある。
住民訴訟の制度趣旨は、①地方公共団体の財務会計行政の適法性の確保(客観法秩序の適正確保)、②地方公共団体の財産上の損失を防止する、③住民参加の促進という三点である(村上順・白藤博行・人見剛編「新基本法コンメンタール地方自治法」(日本評論社)337ページ以下)。本件訴訟は、②地方公共団体の有する株式価値の回復を図るとともに、①違法行為が行われた地方公社のガバナンスを正し、③民主的コントロールを及ぼす必要性の高い地方公社に民主的コントロールを及ぼすというまさしく住民訴訟の制度趣旨に適った訴訟である。
被告が、「違法若しくは不当に…財産の管理を怠」(地方自治法242条1項)っていることは明白であることから、速やかに請求の趣旨のとおりの判決を下し、違法状態を是正されたい。
以 上 
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