【国賠訴訟】笹塚給食記録の書換開示事件を上告

笹塚中学の給食記録書換開示事件に関する国賠訴訟は、一審で渋谷オンブズマンが勝訴したものの、二審では逆転して敗訴したため、最高裁へ上告をした。
以下、上告受理申立の理由書である。

第1 はじめに
原判決は、法理論上・今後の行政実務上、絶対に看過できない二つの違法な判断を犯した。一つは、行政処分・行政手続のあり方そのものを変容させるような判断を行ったこと(行政法上の問題点)、もう一つは、論理則・経験則に違背する重大な事実誤認を行っていること(民事訴訟法上の問題点)である。
以下、詳論する。

第2 行政法上の問題点
1 申立人は、平成21年10月10日、渋谷区教育委員会に対して、「渋谷区立笹塚中学校学校給食の平成20年度分(平成20年4月~平成21年3月)の学校給食の記録」と文書を特定して情報公開請求(以下、「本件情報公開請求」という。)を行った。
行政機関情報公開法を所管する総務省が述べているとおり(甲11号証)、情報公開においては、情報公開請求時点において存在する文書をそのまま加工することなく開示しなければならない。このことは、第一審はおろか、第二審においても認めているところである(原々判決6ページ、原判決8ページ)。
本件の場合、申立人が情報公開請求をした平成21年10月10日現在、渋谷区教育委員会方に存在した笹塚中学校の学校給食の記録は、訂正前の記録である本件当初記録のみであり、本件情報公開請求の請求対象文書は、本件当初記録である。
2 しかるに、原判決は、申立人が情報公開請求を行った文書は、本件当初記録ではなく、本件訂正記録であるとした(原判決7ページ)。申立人が、情報公開請求書によって明確に本件当初記録を求めているにも関わらず、原判決が、情報公開請求対象文書が本件訂正記録であるとした理由は、申立人が、本件訂正記録を欲しているような挙動をとったからであるとしている(原判決7ページ)。要するに、原判決は、行政庁が、申請者の意思を独断で斟酌し、申請書に明示された申請の趣旨とは全く異なる行政処分を自由に行ってよいと判断しているようである。しかしながら、原判決の判断は、憲法31条や行政手続法の趣旨を根底から没却するばかりか、本件条例の規定に明らかに反する違法なものである。
3 行政運営をするにあたって、手続が適正でなければ、行政は、恣意的な行政処分をする可能性が高まるとともに、国民の行政に対する信頼も失われる。そのため、行政にとって、手続の適正は極めて重要な原則であり、その原則の根本は、憲法31条に由来する。
このような行政手続の重要性に鑑み、平成6年に行政手続法が制定された。行政手続法第1条は、「この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第46条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。」とその目的を定めている。そして、行政手続法は、5条以下において、申請に対する処分についての厳格な規律を定めている。渋谷区においても、行政手続法と同内容の渋谷区行政手続条例を定めている。
渋谷区情報公開条例第8条(甲1号証)は、「公開請求者は、実施機関に次の各号に掲げる事項を記載した書面(以下「公開請求書」という。)を提出しなければならない。」と定め、情報公開請求を書面で行わなければならないとしている。情報公開請求を書面で行わなければならないと定められた趣旨は、開示請求権の行使という重要な法律関係の内容を明確にするためである(高橋滋・斎藤誠・藤井昭夫「条解行政情報関連三法」(弘文堂)237ページ、宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説(第5版)」(有斐閣)60ページ)。  このように、情報公開制度においては、開示請求権の行使という重要な法律関係を重視して、その手続において徹頭徹尾書面主義が取られている(本件条例第5条、本件条例第9条、本件条例第9条の2、本件条例第9条の3、本件条例第9条の4等)。そして、書面主義の中でも、本件条例第8条第2号の項目(「公文書を特定するために必要な事項」)を書面で意思表示をすることの重要性は、他の事項を書面で行う場合よりも抜きん出ている。前掲「条解行政情報関連三法」237ページは、「公文書を特定するために必要な事項」を書面で意思表示する重要性について、「特に「開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」は、開示請求者が定める行政文書を他の行政文書と識別・区分するに際して重要な意味をもつので、開示請求者の意思が明確に示される点で、書面主義は口頭主義よりも優れているものといえよう。」と解説している。
原判決は、本件情報公開請求書の「公文書を特定するために必要な事項」からは、情報公開請求対象文書が本件当初文書であるにも関わらず、申立人の挙動から情報公開請求対象文書を本件当初記録であると認定しており、本件条例が書面主義を採用した趣旨を根底から没却している。しかも、原判決が掲げる申立人の挙動のうち、①本件公開決定には訂正版であることが明記されていたこと、②申立人は、本件公開決定に基づき開示を受けた際、開示された記録が本件当初記録ではなく本件訂正記録であることを認識したにもかかわらず、特に異を唱えることなくこれを受領したこと、③申立人が、その後、平成22年11月8日まで、本件情報公開請求により開示された記録が請求した文書と異なるなどと主張した様子は窺われず、かえって、申立人は、本件訂正記録の開示を受けた後、更に納品書、請求書等の開示を求め、これら資料等と、本件当初記録や本件訂正記録を比較検討し、疑問を提示するなどして、本件訂正記録を活用しているという点は、本件情報公開決定後の事情であり、本件情報公開請求対象文書が、本件訂正記録であるとの認定根拠にはなり得ず(原々判決7ページ以下参照)、原判決の事実認定は、根本から破綻している。
原判決は、行政庁が、法定の手続を全く無視した上で、私人の意思を勝手に斟酌して私人の本意とは全く関係なく恣意的な行政処分をしても良いと結論付けているに等しく、原判決が確定することによる今後の行政実務に対する悪影響は極めて甚大である。本件のように、申請に関する手続において、行政庁が、私人の意思を勝手に斟酌して私人の本意とは全く関係なく行政処分を下すようなことがまかり通れば、渋谷区行政手続条例が実現しようとした「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が区民にとって明らかであることをいう。)の向上」(渋谷区行政手続条例1条)は、到底達成できないばかりか、寧ろ間逆の事態(不公正と暗黒)となる。
3 原判決は、①申立人が本件当初記録の一部を入手していたこと、②申立人が本件訂正記録を作成中であることを認識していたことを情報公開請求対象文書が、本件訂正記録であるとする根拠としている。
しかしながら、上記の事情だけでは、情報公開請求対象文書が本件訂正記録であるとする根拠にはなり得ない(原々判決7ページ参照)。情報公開請求をするにあたって、その目的は問われない(本件条例第8条1項参照)のだから、申立人が、本件当初記録の一部を入手していたからといって、本件当初記録について情報公開請求をするのは、申立人の自由である(申立人は、本件当初記録の一部しか見せてもらえなかったことから、本件情報公開請求に及んだ(甲18号証2ページ))。申立人から情報公開請求対象文書を本件訂正記録であるとする補正(本件条例第8条2項参照)がないにも関わらず、申立人が本件訂正記録が作成中であることを認識していたということのみで(教育委員会の担当者は、訂正版を作成中というのみで申立人に情報公開する文書が訂正版であると説明していない(乙3号証3ページ))、情報公開請求対象文書が本件訂正記録であるということを認定することは、前述の書面主義に反するばかりか、事実認定上看過できない経験則違背である。
4 さらに、原判決は、行政処分後の事情(2項の①ないし③の事情)を違法性判断の基礎としており、国賠違法の判断基準として、判例の採用する職務行為基準説(「行政処分をなすにあたって、公務員が職務上尽くすべき注意義務(この注意義務は、行政処分時に存在する注意義務である。)を尽くしたか」最高裁平成5年3月11日判決(民集47・4・2863)等)にも反する判断をしている。
5 したがって、原判決の判断は、本件条例の手続規定(書面主義。本件条例第8条)に明確に反するばかりか、「申請に対する処分において、行政庁は、申請者の意図を申請者に一切諮ることなく自由に斟酌して処分をして構わない。」などという行政手続法の策定や行政手続における適正手続に関する各種判例(例えば、最高裁昭和50年5月29日判決(群馬中央バス事件))等、行政手続における適正手続の実現を推進してきた立法司法学界の今までの努力を水泡に帰す行政法上全く独自の法理論を作出するものであり、原判決が確定することによる今後の行政実務に対する悪影響は極めて甚大であり、最高裁判所におかれては、本件上告を受理し、速やかに原判決を破棄されたい。

第3 民事訴訟法上の問題点
1 わが国の民事訴訟法では、事実認定において自由心証主義が採用されているが、自由心証主義とはいえども事実認定にあたってどのような事実でも認定してはよいということにはならず、論理則・経験則に違背してはならないことは当然のことであり、原判決の事実認定において論理則・経験則違背があった場合、それは法令違反として上告審における審理対象となる(最高裁昭和36年8月8日判決(民集15・7・2005)、最高裁昭和50年10月24日判決(民集29・9・1417)、最高裁平成6年2月22日(民集48・2・441))。
2 本件の場合、申立人が情報公開請求をした文書が、情報公開請求書においては、本件当初記録とされているにもかかわらず、原判決は、以下に述べる申立人の挙動から、情報公開請求対象文書が本件訂正記録であるとした(原判決7ページ以下)。

①申立人が本件当初記録の一部を入手していたこと
②申立人が本件訂正記録を作成中であることを認識していたこと
③本件公開決定には訂正版であることが明記されていたこと
④申立人は、本件公開決定に基づき開示を受けた際、開示された記録が本件当初記録ではなく本件訂正記録であることを認識したにもかかわらず、特に異を唱えることなくこれを受領したこと
⑤申立人が、その後、平成22年11月8日まで、本件情報公開請求により開示された記録が請求した文書と異なるなどと主張した様子は窺われず、かえって、申立人は、本件訂正記録の開示を受けた後、更に納品書、請求書等の開示を求め、これら資料等と、本件当初記録や本件訂正記録を比較検討し、疑問を提示するなどして、本件訂正記録を活用していること

しかしながら、実施機関は、情報公開請求書をもとに、情報公開請求対象文書を特定し、情報公開決定処分を行うことから、ある文書が情報公開対象文書にあたるか否かは、情報公開決定処分以前に決められていなければならないところ、上記③から⑤の事情は、情報公開決定処分後の事情であり、これらの事情をもとに情報公開請求対象文書を認定することは、法論理的に絶対不可能である。また、①②の事情も、①申立人は、一部のみしか入手していなかったことから本件情報公開請求に及んだこと(甲18号証2ページ。そもそも、情報公開請求において、請求目的は問われないことから、対象となる文書を所持しているか否かに関わらず、自由に情報公開請求をなしうる。)、②教育委員会の担当者は、訂正版を作成中というのみで申立人に情報公開する文書が訂正版であると説明していない(乙3号証3ページ)ことから、本件情報公開請求書の明示の記載に反して、情報公開請求対象文書が、本件訂正記録であると認定する根拠には到底なり得ない。
したがって、原判決は、事実認定における論理則・経験則に明確に違背しており、直ちに破棄されなければならない。

第4 結語
以上のように、原判決は、法解釈上・事実認定上、絶対に看過できない誤りを犯している。
申立人及び当職は、原判決の判断を読了後、意図せずに「酷過ぎる。」、「無茶苦茶だ。」という極めて感情的な言葉が口をついて出てしまった。申立人及び当職は、このような法解釈・事実認定の体を全くなしていない極めて非常識な内容の判決が高等裁判所において堂々となされたことについて、未だに信じられない思いである。このような判決がまかり通れば、国民の司法に対する信頼は根底から失われるであろう。原判決が確定することによる司法への悪影響は、計り知れない。
最高裁判所におかれては、本申立を速やかに受理し、原判決を破棄されたい。
以 上

添付書類
1 上告受理申立理由書副本 7通   
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情報公開の根幹が崩壊

情報公開請求後に対象文書を作り変えて開示

がOKなら、情報公開制度そのものがいらないでしょ・・・

そんなこと、素人でもわかる。

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