【詳細】訴状
請 求 の 趣 旨
1<主位的請求>
処分行政庁渋谷区教育委員会は、学校法人ホライゾン学園に対する平成20年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第23号)を取り消せ
<予備的請求>
処分行政庁渋谷区教育委員会は、学校法人ホライゾン学園に対する平成20年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第23号)に付された使用料免除の条件を取消し、渋谷区行政財産使用条例第2条に基づく使用料支払を条件とせよ
2 被告は、桑原敏武、原秀子、大高満範、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世津子に対し、連帯して1億0618万8000円を支払うよう請求せよ
3 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
請 求 の 原 因
第1 事件の概要
1 事件の要旨
渋谷区教員委員会(以下「教育委員会」という。)は、平成19年5月1日より現在に至るまで、「国際交流学級の設置」との名目にて、学校法人ホライゾン学園(以下「ホライゾン学園」という。)に対し、渋谷区神宮前4丁目20番12号所在の渋谷区立神宮前小学校(以下「神宮前小学校」という。)の校舎の一部を専用させ、運動場、体育館、プール、和室等を同小学校と共用させている。いずれも無償である。
ホライゾン学園は、HJIS(ホライゾンジャパンインターナショナルスクール)との名称でインターナショナルスクールを運営しており、現在、横浜校と渋谷校の2校を開設している。その渋谷校の所在地が神宮前小学校内である。
すなわち、教育委員会は、民間の一学校法人に対し、インターナショナルスクールの施設として、原宿表参道の一等地にある区立小学校内施設を無償提供するという破格の便宜・利益を与えている。
本件は、教育委員会による無償提供の根拠となる、平成19年3月29日付け及び平成20年3月21日付け渋谷区行政財産使用許可(以下「本件使用許可」という。)の違法性を問うものである。
2 当事者
(1)原告らはいずれも渋谷区民である。
(2)原告らが被告に対し損害賠償請求を求める相手方たる桑原武敏氏は、本件使用許可がなされた平成19年3月29日及び平成20年3月21日当時を含め平成15年から現在に至るまで、渋谷区長の地位にある。
同じく原秀子氏、大高満範氏、椿滋男氏、佐藤喜彦氏及び池山世津子氏の5名はいずれも、本件使用許可がなされた平成19年3月29日及び平成20年3月21日当時を含め現在に至るまで、教育委員会を構成する委員の地位にある。
3 本件使用許可に至る経緯
渋谷区により情報公開された資料によれは、本件使用許可に至る経緯は次のとおりである。
(1)渋谷区は、平成17年9月、トルコ共和国イスタンブール市ウスキュダル区との間において友好都市協定を締結した。同協定締結と同時に、在日トルコ共和国大使から渋谷区長に対し、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設の提供について協力要請がなされた。
平成17年11月、渋谷区長は、在日トルコ共和国大使に対し、渋谷区としてトルコ人を中心とした子供達のための教育施設の提供に協力していく旨を伝えるとともに、その教育施設として神宮前小学校を提示した。教育委員会(教育長)に対しても、その旨を伝えたうえで、教育委員会において検討するよう指示した。
平成17年11月から平成18年6月にかけて、教育委員会事務局内において、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供することについての法的な問題、国庫補助金の取扱いなどが検討された。
そして、平成18年6月下旬、教育委員会から渋谷区長に対し、一定の条件の下において、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供できることが報告された。
(2)平成18年7月以降は、神宮前小学校長も交えた協議、町会連合会、PTA、保護者などへの説明、区議会文教委員会への報告など、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供するための各種手続がすすめられた。
この間の平成18年9月29日、在日トルコ共和国大使より渋谷区長に対し、神宮前小学校内施設の提供を受ける事業者としてホライゾン学園が紹介された。
神宮前小学校においては、平成19年4月に開設が予定されていた放課後クラブや特別支援教室のための改修工事及び各種内装工事が行われることになっており、これらの改修工事の中で、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設開設に向けての整備が行われた。
(3)教育委員会は、ホライゾン学園に対する神宮前小学校内施設の提供を1年ごとの更新とし、使用料免除(無償)にて、平成19年5月1日から無償提供を開始した。
すなわち、平成19年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可により使用期間を平成19年5月1日から平成20年3月31日までとして無償提供がなされ、平成20年3月21日付け渋谷区行政財産使用許可によりこれが更新され、使用期間を平成20年4月1日から平成21年3月31日までとして無償提供がなされて現在に至っている。
(4)教育委員会は、ホライゾン学園に対する神宮前小学校内施設の提供をもって、「渋谷区とトルコ共和国の子供達の国際交流を目的とする」「国際交流学級の設置」であるとしているが、以上の経緯から明らかなとおり、渋谷区長の意向により神宮前小学校内施設をホライゾン学園に無償提供するとの結論がまず先にあり、これを可能にする理屈として「国際交流学級の設置」との名目が作られたにすぎないのである。
4 ホライゾン学園の概要
(1)ホライゾン学園は、平成15年4月1日に設立され、現在の主たる事業所の所在地は横浜市鶴見区東寺尾1−38−27である。
HJIS(ホライゾンジャパンインターナショナルスクール)との名称でインターナショナルスクールを運営することを目的としており、平成15年2月3日付けの神奈川県知事による学校設置認可を得て、設立と同時に神奈川県横浜市鶴見区東寺尾1−33−6にてインターナショナルスクールを開校している。
(2)理事長を含む理事11名中10名が外国人である。
ホライゾン学園設立当時の理事長であり、実質的経営者と思われるオズカン・レジェブ氏は、日本語学校、外国語学校及び学習塾等の経営を主たる業務とする株式会社バハールエディケーション(本店所在地:渋谷区代々木二丁目10番10号)の代表取締役でもあり、ホライゾン学園の理事の多くが螢丱蓮璽襯┘妊ケーションの役員を兼務している。
ホライゾン学園は、平成15年4月1日に開校した横浜市鶴見区所在のHJISの土地建物を螢丱蓮璽襯┘妊ケーションから無償にて譲り受けているほか、同社やその役員から借入れも受けている。
(3)HJISの学費は、入学金が30万円、建物基金が20万円、維持管理費が年額10万円、授業料が年額154万5000円とされている。
すなわち、入学の初年度には少なくとも214万5000円、次年度以降でも少なくとも年額164万5000円の授業料等を支払わなければならず、極めて高額の学費を支払える経済力のある家庭の子供達のみを対象としたインターナショナルスクールである。
なお、HJISでは、授業はすべて英語で行われ、英語以外は使用してはいけないことになっており、トルコ語は使用されていない。
(4)ホライゾン学園は、平成19年5月1日に、本件使用許可に基づき神宮前小学校内施設にてインターナショナルスクールを開校した。そのため、平成15年4月1日に開校した横浜市鶴見区所在のHJISを「横浜校」と称し、神宮前小学校内のHJISを「渋谷校」と称している。
ホライゾン学園の報告によれば、渋谷校には現在、外国籍を有する3歳から11歳までの31名の児童が学んでいるとのことである。
なお、渋谷校でも、授業はすべて英語で行われており、北米式カリキュラムによる英語教育が行われている。
(5)以上のとおり、ホライゾン学園が運営するHJISは、裕福な家庭の子供達のみを対象とし、北米式カリキュラムによる英語教育を行うインターナショナルスクールである。トルコ共和国とのつながりは唯一、実質的経営者がトルコ人であるというだけである。
5 住民監査請求
原告らは、後記の理由により本件使用許可は違法であるとして、渋谷区監査委員に対し、地方自治法242条第1項に基づく監査請求を行った。主位的には教育委員会による本件使用許可の取消しを求め、予備的には本件使用許可に付された使用料免除条件の取消しと適正な使用料の支払条件の付加を求めた。また、渋谷区長及び渋谷区教育委員5名に対し、個人の資格において連帯して、平成19年5月1日から現在までの使用損害金及び神宮前小学校の施設工事整備費のうちホライゾン学園による使用部分の施設工事整備費を補填するよう求めた。受理日は平成20年6月30日である。
これに対し、渋谷区監査委員は、本件使用許可あるいは本件使用許可に付された使用料免除の条件は違法であるとの原告らの主張をいずれも退け、平成20年8月29日付けにて監査請求を却下ないし棄却した(以下「本件監査結果」という。)。
第2 本件使用許可の違法性
1 地方自治法第238条の4第7項違反
(1)本件使用許可は、ホライゾン学園に対し、行政財産である神宮前小学校の校舎の一部454.25屬鮴賤僂気擦訛勝運動場、体育館、プール、和室等を神宮前小学校と共用させるものである。
地方自治法第238条の4第7項は、「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」と定める。すなわち、行政財産は、本来の用途又は目的のために適正に使用されるよう管理しなければならない。
そもそも公立小学校の「用途又は目的」は、教育基本法第1条(教育の目的)・第4条(教育の機会均等)、学校教育法第21条(教育の目標)等教育法令に従ってなされる初等義務教育にあり、広く等しい教育環境を提供することにある。
とすれば、授業料無料の義務教育課程の児童約120名と、年額約160万円もの高額な授業料を支払う私立学校の外国籍の児童31名(3歳から11歳)とを同じ校舎で学ばせることは、授業料無料の義務教育課程の児童に対する教育的配慮に欠けるのみならず、極めて高額の授業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童にしか門戸を開かない私立学校を公立小学校内で経営させること自体、広く等しい教育環境を提供すべき公立小学校の理念及び上記法令に著しく違反する。
(2)これに対し、本件監査結果は、神宮前小学校は学校経営方針が示すとおり国際交流に力を入れており、教育委員会は国際交流学級の創設を企図したものであるとし、児童の少人数化で生まれた余裕教室を使用しており神宮前小学校の教育活動が制約されている事実もないとして本件使用許可の違法性を否定する。
しかし、教育委員会は、神宮前小学校内に国際交流学級を創設したのではない。高額の授業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童のみを対象とするインターナショナルスクールを運営する民間の事業者に神宮前小学校内施設を無償提供しただけである。
現にホライゾン学園は、神宮前小学校内施設を国際交流学級であるとは全く認識していない。ホライゾン学園は、そのホームページにおいて、「横浜校と渋谷校の2つのキャンパス」を持つとしてHJISを宣伝し、神宮前小学校内施設を「HJIS渋谷校」と称し、HJIS横浜校と全く同列に置いている。「HJIS渋谷校」がHJIS横浜校とは性格の異なる国際交流学級である旨の説明は一切ない。その住所にも来訪者向けのアクセスの紹介にも、神宮前小学校の名称すら出していない。
すなわち、ホライゾン学園にとって、神宮前小学校は「HJIS渋谷校」の所在地であり施設にすぎないのである。
もし仮に、教育委員会が主張するとおり国際交流学級を創設したのだとしても、区立小学校でありながら、入学の初年度には約220万円、その後も毎年約160万円もの高額の学費を徴収する事業者に運営を任せ、極めて裕福な家庭の児童にしか門戸を開かず、裕福でない家庭の児童は閉め出して教育も国際交流の機会も与えないのであるから、公立小学校の用途又は目的に著しく違反することは明らかである。
(3)ところで、ホライゾン学園が神宮前小学校内に開設している教育施設が一体いかなる法的性格のものか不明であるが、少なくともホライゾン学園は、インターナショナルスクールであると公然と明示して児童も募集しており、教育委員会もこれを承知している。
ホライゾン学園が神宮前小学校内にインターナショナルスクールを開設するためには東京都知事の認可が必要であり、インターナショナルスクールでないとしても所轄官庁である神奈川県知事の認可が必要となる。
しかし、ホライゾン学園はいずれの認可も得ていない。
ゆえに、教育委員会は、神宮前小学校内において違法な教育施設を運営させているのであり、この点に鑑みても本件使用許可は違法である。
(4)以上のとおり、本件使用許可は、公立小学校本来の「用途又は目的」を妨げ、少なくとも「用途又は目的を妨げない限度」を超えており、違法であることは明らかである。
従って、本件使用許可は、地方自治法第238条の4第7項に違反するものであるから、教育委員会により取り消されなければならない。
2 渋谷区行政財産使用条例第5条違反
もし仮に、渋谷区神宮前小学校内施設をホライゾン学園に使用させることが適法であるとしても、使用料免除(無償)としたことには正当な理由がなく違法である。
渋谷区行政財産使用条例第5条は、行政財産の使用料を減免できる場合を定めており、教育委員会は、同条第3号の「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」に該当するものとして使用料免除の条件を付したようである。
しかし、同条は、行政財産の使用料を減免できる場合として、「国または地方公共団体その他公共団体において、公用または公共用に供するため使用するとき」(同条第1号)と「既に貸し付けられた行政財産が、地震、水災、火災等の災害のため、当該財産の使用目的に供し難いと認めるとき」(同条第2号)を列挙して定めているのであるから、「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」(同条第3号)とは、「公共用に供するため使用するとき」や「災害のため使用目的に供し難いとき」に匹敵する程度の必要性が要求される。しかも、減額ではなく敢えて免除とする以上は、より高度な必要性が要求される。
ホライゾン学園は、神宮前小学校内施設において、インターナショナルスクール(HJIS渋谷校)を開設している。神宮前小学校内施設を無償提供されたからといって、学費を低額にするなどして裕福でない家庭の児童にも広く門戸を開放するわけでもなく、HJIS横浜校と同じ極めて高額の学費を徴収して利益を得ている。1校目のインターナショナルスクールを運営し、2校目のインターナショナルスクールを開設したいと考えていた民間の事業者であるホライゾン学園にとっては、神宮前小学校内施設をインターナショナルスクールの施設として使用できること自体、多大な便宜・利益である。それに加えて、使用料免除という破格の便宜・利益を与える必要性はまったく認められない。
ゆえに、もし仮に、神宮前小学校内施設をホライゾン学園に使用させることが適法であるとしても、使用料免除(無償)とすることは渋谷区行政財産使用条例第5条に違反し行政裁量を逸脱した財務会計上の違法行為である。教育委員会は、これを直ちに取り消し、同法第2条に基づく適正な使用料条件を付加しなければならない。
3 公立学校施設整備費補助金等に係る財産処分手続きの欠落
渋谷区は、区立小学校をホライゾン学園が経営する私立学校の施設に転用したのであるから、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年8月27日法律第179号)の規定により、文部科学大臣の承認を経た上で、国庫補助相当額を国に納付する転用手続き(財産処分)が必要である。しかるに、渋谷区は、当該手続きをしないまま本件使用許可をなしたものであり、形式的な要件を満たしておらず違法である。なお、渋谷区は、原告らが本件監査請求を提出した翌日である平成20年7月1日に財産処分承認申請を文部科学省宛に提出している。
1<主位的請求>
処分行政庁渋谷区教育委員会は、学校法人ホライゾン学園に対する平成20年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第23号)を取り消せ
<予備的請求>
処分行政庁渋谷区教育委員会は、学校法人ホライゾン学園に対する平成20年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第23号)に付された使用料免除の条件を取消し、渋谷区行政財産使用条例第2条に基づく使用料支払を条件とせよ
2 被告は、桑原敏武、原秀子、大高満範、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世津子に対し、連帯して1億0618万8000円を支払うよう請求せよ
3 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
請 求 の 原 因
第1 事件の概要
1 事件の要旨
渋谷区教員委員会(以下「教育委員会」という。)は、平成19年5月1日より現在に至るまで、「国際交流学級の設置」との名目にて、学校法人ホライゾン学園(以下「ホライゾン学園」という。)に対し、渋谷区神宮前4丁目20番12号所在の渋谷区立神宮前小学校(以下「神宮前小学校」という。)の校舎の一部を専用させ、運動場、体育館、プール、和室等を同小学校と共用させている。いずれも無償である。
ホライゾン学園は、HJIS(ホライゾンジャパンインターナショナルスクール)との名称でインターナショナルスクールを運営しており、現在、横浜校と渋谷校の2校を開設している。その渋谷校の所在地が神宮前小学校内である。
すなわち、教育委員会は、民間の一学校法人に対し、インターナショナルスクールの施設として、原宿表参道の一等地にある区立小学校内施設を無償提供するという破格の便宜・利益を与えている。
本件は、教育委員会による無償提供の根拠となる、平成19年3月29日付け及び平成20年3月21日付け渋谷区行政財産使用許可(以下「本件使用許可」という。)の違法性を問うものである。
2 当事者
(1)原告らはいずれも渋谷区民である。
(2)原告らが被告に対し損害賠償請求を求める相手方たる桑原武敏氏は、本件使用許可がなされた平成19年3月29日及び平成20年3月21日当時を含め平成15年から現在に至るまで、渋谷区長の地位にある。
同じく原秀子氏、大高満範氏、椿滋男氏、佐藤喜彦氏及び池山世津子氏の5名はいずれも、本件使用許可がなされた平成19年3月29日及び平成20年3月21日当時を含め現在に至るまで、教育委員会を構成する委員の地位にある。
3 本件使用許可に至る経緯
渋谷区により情報公開された資料によれは、本件使用許可に至る経緯は次のとおりである。
(1)渋谷区は、平成17年9月、トルコ共和国イスタンブール市ウスキュダル区との間において友好都市協定を締結した。同協定締結と同時に、在日トルコ共和国大使から渋谷区長に対し、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設の提供について協力要請がなされた。
平成17年11月、渋谷区長は、在日トルコ共和国大使に対し、渋谷区としてトルコ人を中心とした子供達のための教育施設の提供に協力していく旨を伝えるとともに、その教育施設として神宮前小学校を提示した。教育委員会(教育長)に対しても、その旨を伝えたうえで、教育委員会において検討するよう指示した。
平成17年11月から平成18年6月にかけて、教育委員会事務局内において、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供することについての法的な問題、国庫補助金の取扱いなどが検討された。
そして、平成18年6月下旬、教育委員会から渋谷区長に対し、一定の条件の下において、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供できることが報告された。
(2)平成18年7月以降は、神宮前小学校長も交えた協議、町会連合会、PTA、保護者などへの説明、区議会文教委員会への報告など、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設として神宮前小学校内施設を提供するための各種手続がすすめられた。
この間の平成18年9月29日、在日トルコ共和国大使より渋谷区長に対し、神宮前小学校内施設の提供を受ける事業者としてホライゾン学園が紹介された。
神宮前小学校においては、平成19年4月に開設が予定されていた放課後クラブや特別支援教室のための改修工事及び各種内装工事が行われることになっており、これらの改修工事の中で、トルコ人を中心とした子供達のための教育施設開設に向けての整備が行われた。
(3)教育委員会は、ホライゾン学園に対する神宮前小学校内施設の提供を1年ごとの更新とし、使用料免除(無償)にて、平成19年5月1日から無償提供を開始した。
すなわち、平成19年3月29日付け渋谷区行政財産使用許可により使用期間を平成19年5月1日から平成20年3月31日までとして無償提供がなされ、平成20年3月21日付け渋谷区行政財産使用許可によりこれが更新され、使用期間を平成20年4月1日から平成21年3月31日までとして無償提供がなされて現在に至っている。
(4)教育委員会は、ホライゾン学園に対する神宮前小学校内施設の提供をもって、「渋谷区とトルコ共和国の子供達の国際交流を目的とする」「国際交流学級の設置」であるとしているが、以上の経緯から明らかなとおり、渋谷区長の意向により神宮前小学校内施設をホライゾン学園に無償提供するとの結論がまず先にあり、これを可能にする理屈として「国際交流学級の設置」との名目が作られたにすぎないのである。
4 ホライゾン学園の概要
(1)ホライゾン学園は、平成15年4月1日に設立され、現在の主たる事業所の所在地は横浜市鶴見区東寺尾1−38−27である。
HJIS(ホライゾンジャパンインターナショナルスクール)との名称でインターナショナルスクールを運営することを目的としており、平成15年2月3日付けの神奈川県知事による学校設置認可を得て、設立と同時に神奈川県横浜市鶴見区東寺尾1−33−6にてインターナショナルスクールを開校している。
(2)理事長を含む理事11名中10名が外国人である。
ホライゾン学園設立当時の理事長であり、実質的経営者と思われるオズカン・レジェブ氏は、日本語学校、外国語学校及び学習塾等の経営を主たる業務とする株式会社バハールエディケーション(本店所在地:渋谷区代々木二丁目10番10号)の代表取締役でもあり、ホライゾン学園の理事の多くが螢丱蓮璽襯┘妊ケーションの役員を兼務している。
ホライゾン学園は、平成15年4月1日に開校した横浜市鶴見区所在のHJISの土地建物を螢丱蓮璽襯┘妊ケーションから無償にて譲り受けているほか、同社やその役員から借入れも受けている。
(3)HJISの学費は、入学金が30万円、建物基金が20万円、維持管理費が年額10万円、授業料が年額154万5000円とされている。
すなわち、入学の初年度には少なくとも214万5000円、次年度以降でも少なくとも年額164万5000円の授業料等を支払わなければならず、極めて高額の学費を支払える経済力のある家庭の子供達のみを対象としたインターナショナルスクールである。
なお、HJISでは、授業はすべて英語で行われ、英語以外は使用してはいけないことになっており、トルコ語は使用されていない。
(4)ホライゾン学園は、平成19年5月1日に、本件使用許可に基づき神宮前小学校内施設にてインターナショナルスクールを開校した。そのため、平成15年4月1日に開校した横浜市鶴見区所在のHJISを「横浜校」と称し、神宮前小学校内のHJISを「渋谷校」と称している。
ホライゾン学園の報告によれば、渋谷校には現在、外国籍を有する3歳から11歳までの31名の児童が学んでいるとのことである。
なお、渋谷校でも、授業はすべて英語で行われており、北米式カリキュラムによる英語教育が行われている。
(5)以上のとおり、ホライゾン学園が運営するHJISは、裕福な家庭の子供達のみを対象とし、北米式カリキュラムによる英語教育を行うインターナショナルスクールである。トルコ共和国とのつながりは唯一、実質的経営者がトルコ人であるというだけである。
5 住民監査請求
原告らは、後記の理由により本件使用許可は違法であるとして、渋谷区監査委員に対し、地方自治法242条第1項に基づく監査請求を行った。主位的には教育委員会による本件使用許可の取消しを求め、予備的には本件使用許可に付された使用料免除条件の取消しと適正な使用料の支払条件の付加を求めた。また、渋谷区長及び渋谷区教育委員5名に対し、個人の資格において連帯して、平成19年5月1日から現在までの使用損害金及び神宮前小学校の施設工事整備費のうちホライゾン学園による使用部分の施設工事整備費を補填するよう求めた。受理日は平成20年6月30日である。
これに対し、渋谷区監査委員は、本件使用許可あるいは本件使用許可に付された使用料免除の条件は違法であるとの原告らの主張をいずれも退け、平成20年8月29日付けにて監査請求を却下ないし棄却した(以下「本件監査結果」という。)。
第2 本件使用許可の違法性
1 地方自治法第238条の4第7項違反
(1)本件使用許可は、ホライゾン学園に対し、行政財産である神宮前小学校の校舎の一部454.25屬鮴賤僂気擦訛勝運動場、体育館、プール、和室等を神宮前小学校と共用させるものである。
地方自治法第238条の4第7項は、「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」と定める。すなわち、行政財産は、本来の用途又は目的のために適正に使用されるよう管理しなければならない。
そもそも公立小学校の「用途又は目的」は、教育基本法第1条(教育の目的)・第4条(教育の機会均等)、学校教育法第21条(教育の目標)等教育法令に従ってなされる初等義務教育にあり、広く等しい教育環境を提供することにある。
とすれば、授業料無料の義務教育課程の児童約120名と、年額約160万円もの高額な授業料を支払う私立学校の外国籍の児童31名(3歳から11歳)とを同じ校舎で学ばせることは、授業料無料の義務教育課程の児童に対する教育的配慮に欠けるのみならず、極めて高額の授業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童にしか門戸を開かない私立学校を公立小学校内で経営させること自体、広く等しい教育環境を提供すべき公立小学校の理念及び上記法令に著しく違反する。
(2)これに対し、本件監査結果は、神宮前小学校は学校経営方針が示すとおり国際交流に力を入れており、教育委員会は国際交流学級の創設を企図したものであるとし、児童の少人数化で生まれた余裕教室を使用しており神宮前小学校の教育活動が制約されている事実もないとして本件使用許可の違法性を否定する。
しかし、教育委員会は、神宮前小学校内に国際交流学級を創設したのではない。高額の授業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童のみを対象とするインターナショナルスクールを運営する民間の事業者に神宮前小学校内施設を無償提供しただけである。
現にホライゾン学園は、神宮前小学校内施設を国際交流学級であるとは全く認識していない。ホライゾン学園は、そのホームページにおいて、「横浜校と渋谷校の2つのキャンパス」を持つとしてHJISを宣伝し、神宮前小学校内施設を「HJIS渋谷校」と称し、HJIS横浜校と全く同列に置いている。「HJIS渋谷校」がHJIS横浜校とは性格の異なる国際交流学級である旨の説明は一切ない。その住所にも来訪者向けのアクセスの紹介にも、神宮前小学校の名称すら出していない。
すなわち、ホライゾン学園にとって、神宮前小学校は「HJIS渋谷校」の所在地であり施設にすぎないのである。
もし仮に、教育委員会が主張するとおり国際交流学級を創設したのだとしても、区立小学校でありながら、入学の初年度には約220万円、その後も毎年約160万円もの高額の学費を徴収する事業者に運営を任せ、極めて裕福な家庭の児童にしか門戸を開かず、裕福でない家庭の児童は閉め出して教育も国際交流の機会も与えないのであるから、公立小学校の用途又は目的に著しく違反することは明らかである。
(3)ところで、ホライゾン学園が神宮前小学校内に開設している教育施設が一体いかなる法的性格のものか不明であるが、少なくともホライゾン学園は、インターナショナルスクールであると公然と明示して児童も募集しており、教育委員会もこれを承知している。
ホライゾン学園が神宮前小学校内にインターナショナルスクールを開設するためには東京都知事の認可が必要であり、インターナショナルスクールでないとしても所轄官庁である神奈川県知事の認可が必要となる。
しかし、ホライゾン学園はいずれの認可も得ていない。
ゆえに、教育委員会は、神宮前小学校内において違法な教育施設を運営させているのであり、この点に鑑みても本件使用許可は違法である。
(4)以上のとおり、本件使用許可は、公立小学校本来の「用途又は目的」を妨げ、少なくとも「用途又は目的を妨げない限度」を超えており、違法であることは明らかである。
従って、本件使用許可は、地方自治法第238条の4第7項に違反するものであるから、教育委員会により取り消されなければならない。
2 渋谷区行政財産使用条例第5条違反
もし仮に、渋谷区神宮前小学校内施設をホライゾン学園に使用させることが適法であるとしても、使用料免除(無償)としたことには正当な理由がなく違法である。
渋谷区行政財産使用条例第5条は、行政財産の使用料を減免できる場合を定めており、教育委員会は、同条第3号の「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」に該当するものとして使用料免除の条件を付したようである。
しかし、同条は、行政財産の使用料を減免できる場合として、「国または地方公共団体その他公共団体において、公用または公共用に供するため使用するとき」(同条第1号)と「既に貸し付けられた行政財産が、地震、水災、火災等の災害のため、当該財産の使用目的に供し難いと認めるとき」(同条第2号)を列挙して定めているのであるから、「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」(同条第3号)とは、「公共用に供するため使用するとき」や「災害のため使用目的に供し難いとき」に匹敵する程度の必要性が要求される。しかも、減額ではなく敢えて免除とする以上は、より高度な必要性が要求される。
ホライゾン学園は、神宮前小学校内施設において、インターナショナルスクール(HJIS渋谷校)を開設している。神宮前小学校内施設を無償提供されたからといって、学費を低額にするなどして裕福でない家庭の児童にも広く門戸を開放するわけでもなく、HJIS横浜校と同じ極めて高額の学費を徴収して利益を得ている。1校目のインターナショナルスクールを運営し、2校目のインターナショナルスクールを開設したいと考えていた民間の事業者であるホライゾン学園にとっては、神宮前小学校内施設をインターナショナルスクールの施設として使用できること自体、多大な便宜・利益である。それに加えて、使用料免除という破格の便宜・利益を与える必要性はまったく認められない。
ゆえに、もし仮に、神宮前小学校内施設をホライゾン学園に使用させることが適法であるとしても、使用料免除(無償)とすることは渋谷区行政財産使用条例第5条に違反し行政裁量を逸脱した財務会計上の違法行為である。教育委員会は、これを直ちに取り消し、同法第2条に基づく適正な使用料条件を付加しなければならない。
3 公立学校施設整備費補助金等に係る財産処分手続きの欠落
渋谷区は、区立小学校をホライゾン学園が経営する私立学校の施設に転用したのであるから、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年8月27日法律第179号)の規定により、文部科学大臣の承認を経た上で、国庫補助相当額を国に納付する転用手続き(財産処分)が必要である。しかるに、渋谷区は、当該手続きをしないまま本件使用許可をなしたものであり、形式的な要件を満たしておらず違法である。なお、渋谷区は、原告らが本件監査請求を提出した翌日である平成20年7月1日に財産処分承認申請を文部科学省宛に提出している。
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